舞台は某大手のシステム企業で営業成績が芳しくない中部事業部(部員約400名)。
主人公は、この事業部の立て直しを命じられた事業部長で、この本は、事業部長が社内(部内?)の電子掲示板に掲載していた「事業部長奮闘日記」がもとになっていて、ほとんどが実話のようである。(会社名は仮名で、取引先や個人名は伏せられている)
現場感のある事業再生ストーリー。
書籍名 | インサイドアウト?利益を2倍にした事業再生の2年10か月 |
作者 | 土岐勝司 |
出版社 | ダイヤモンド社 |
自分と同じIT企業が舞台で、しかも場所も同じ中部ということで、興味を持って読み始めた。
日記だが、前半部分には経営に役立つ重要な部分がたくさんあった。なお、後半は事業部の成績が上昇していく進捗具合が述べられている。
問題部署の立て直しと聞いて、最初はコスト削減を思い浮かべたが、コスト削減は行っていない。それどころか将来に対する投資を優先し、社内環境の高度化や社員教育にお金を使っている。その結果、事業部長赴任の前年には、10名程度しか情報処理系の資格を持っていなかったのが、赴任後半年で200名近くが資格を取得している。
マネジメントについての考え方
私のマネジメントの根本は、「明確なビジョンの下」に「正しい戦略を最速で実行する」ことにつきる。
明確なビジョンの下にしか正しい戦略は生まれないのである。
正しい戦略と最速実行の二つが揃ってこそ、事業は爆発的に成長するのである。
また、最速実行のポイントは、「正しいリーダシップ」であり、自らが変わり、周りを変えていくインサイド・アウトの姿勢だ。
課長、係長とのミーティングで、事業部の本質を見抜く
私は確信した、いまの中部事業部は、完全な延命型組織に陥っている。何とか利益を計上することによって存続し続けることが目的化している。そこにあるのは過度なコストダウンや投資抑制、創造性の否定と権力主義だ。
延命型組織に陥った根本原因は、ビジョンの欠如である。
赴任当初のオフィスの状態は、以下のようだった。
しかしすぐに気が付いたのは、朝の挨拶が全くできていないこと、かろうじて挨拶しても大変に暗いということだ。電話の応対もまちまちでサービスレベルが統一されていない。
オフィスの整理整頓も全くできておらず・・・極めつけは宅配便などの出入りの業者さんや掃除の方々への態度の悪さだ。
基本泣き組織に応用編はない
これに対し、お金を使って、資料の電子化(無駄な資料の削減、整理整頓)、電話応対の研修などを行い、オフィスを活性化していく。
展示会などのイベントは、知名度アップ、売り上げ拡大以外にも、社員の実態を見る機会と考えていた。
イベントはサービスの縮図であり、目配り、気配り、気づき、サービスマインド、鳥瞰力、段取り力、状況対応力、統率力、創造力などが必要とされる。経営の縮図とさえいえる。
具体策のない目標について
例えば、目標を「全社員で販売台数1万台達成」と掲げ、それで終わりという事業戦略がままある。しかし、この戦略はまず間違いなく実現しない。どうやって一万台を販売するかという具体案(戦術)が示されていないからだ。>具体性のない戦略は絶対に実行されないし、単なる意思表示にすぎない。
さて戦略立案において、正しい未来予測の次に重要なのは「ビジョン→戦略→戦術」までのブレークダウンを徹底して行い、具体案(戦術)まで落とし込むことだ。
リーダーとプレゼンテーションの関係
リーダーにとってプレゼンテーション能力は大変に重要なスキルだ。
ここでいうプレゼンテーション能力とは、正しく書き、正しく話し、細田玄伝える能力である。さらには部下が作成した提案書等を正しく推敲するコーティング能力なども含まれる。
戦略発表会には仕事の都合で出席できない部員もいる。それにたいして、「資料を見ておくように」では済まさず、全員に対し直接説明を行う。
正しい戦略を私から全部員に生の声で伝え、理解し共有してもらう大切な場であり、正しい戦略を最速で実行する最初の一歩だ。一人の部員たりとも欠席してもらうわけにはいかない。今日出席できない部員のために来週もう一回開催するし、それでも出席しない部員には、最後には一対一で説明するつもりだ。
仕事時間外に一緒に会う場を設けて、時間をかけてコミュニケーションをとり、部員たちの本音を聞き出したり、モチベーションをあげている。
新ビジョンと戦略が部員全員の腹にしっかりと落ち、共有してもらうには、何度も繰り返し説明し、議論し、咀嚼する過程が不可欠だ。そして、少人数とフェイス・トゥ・フェイスで向かい合い、じっくりと語り合えるこのオフサイト・ミーティングこそが最も有効な場だ。
その他
やはり、トラブル対応はスピードと誠意が必要だ。その対応でピンチがチャンスに変わる。
我々がお仕事させていただくお客様は一流企業の素晴らしい人格と能力をお持ちの方々だ。
若輩である我々が、そういう方々に認められ、可愛がっていただくには、まずは一流の人格や品性を身に着けなければならない。「基本無き組織に応用編はない」という言葉を再度思い出してほしい。
戦略レビューは3か月に1回行うことに決めている。激変のIT業界において、新たに作った戦略が正しいのはせいぜい3か月で、その頻度で見直さなければ間違った計画を実行続けることになりかねない。
受注のための提案書のレビュー、プレゼンの練習を何度(5?6)も繰り返す。
頻繁に出てくる、「リーダーシップ」、「コーティング」の言葉。
が印象的だった。