【書評】総合スーパーの興亡

総合スーパーの3強である、イトーヨーカドー、ダイエー、ジャスコの戦略を、神戸大学経営学部の三品和弘教授と、そのゼミ生が分析した本。
三品教授は「まえがき」と「あとがき」の執筆のみで、本文は、ゼミ生が分担して書いている。
そのため、難しい理論が満載の、「硬い本」ではなく、わりとすらすらと読める。

いきなり、立てた仮説(店長の力量で競合に勝てる)が、もろくも崩れる波乱から始まる。
しかし、ひるむことなく、競争に勝つ要因について、つぎつぎと仮説を立て検証する。
そして、「店舗が新しいこと」が競争に勝つ要因であることを突き止める。
ここまでが、第1章の「店長」。この後、「本社企画」という章では、出店政策、経営管理、組織、財務を分析し、最終章の「経営者」では、戦略は、経営者の考え方、経験などが強い影響を与えているとの考えから、経営者の生い立ちなどを調べています。

個人的に興味深かったのは、ジャスコの戦略です。
ダイエーとイトーヨーカドーの対比は、いままでも、いろいろな本で書かれていて、なんとなく理解していましたが、ジャスコの戦略については、詳しい本を読んだことが無いため、まったく知りませんでした。

ジャスコの戦略を簡単に言うと、出店政策は、スクラップ&ビルドで、新しい店舗を次々と出店する一方で、古い店舗もどんどん閉店しています。「店舗が新しいこと」が勝つ要因であると、前にでましたが、それに沿った教科書的な出店政策です。
また、地方のスーパーとの合併を続けていますが、合併後も、前会社の経営陣に、その地域の営業を任せるなど、対等の立場の合併を行っています。
スーパーだけでなく、専門店とも協力関係を築くことで、ショッピングセンターへの出店を促し、そのテナント料で利益を上げています。

本書の最大のテーマは、「なぜダイエーはつぶれたのか?」です。その理由が「事業の立地」にあると、述べています。
「事業の立地」とは、地理的な立地ではなく、「その業種がどのようにして、利益を上げるか」という、事業の立ち位置のことです。
本書では、食料品を入り口に、高い利益率の衣料品などを販売することで、利益を上げる総合スーパーの「事業の立地」は、バブル崩壊と、カテゴリーキラー(専門店)の台頭によって、なくなってしまったと結論付けています。(事実、総合スーパーの利益率は90年前半をピークに、右肩下がりになっています)
そのため、新たな「事業の立地」の探索がバブル崩壊後の総合スーパーの大きな課題でした。
イトーヨーカドーは、セブンイレブンという、コンビニを新しい事業の立地としました。
ジャスコは、カテゴリーキラーと手を組むことで、テナント収入というあらたな収入源を得ました。
そして、ダイエーは・・・。いろいろなものに手を出したのですが、どれも新たな柱になることはありませんでした。

簡単に各社の戦略をまとめました。(かなり、個人的な主観ですが)

/ 出店戦略 連携 新事業 考え方
ジャスコ スクラップ&ビルド 対等合併 テナント収入 アメリカを手本・協調拡大・学問
イトーヨーカドー 地域ドミナント 独自路線 コンビニ 本業に直結・借金嫌い・信用
ダイエー 拡大 吸収合併 ??? 安売り・売上げはすべてを癒す

このほか、書ききれないのですが、本書には、ジャスコの創業者の岡田卓也さんと、その家族の話など興味深い話がいろいろあります。
(姉の存在。なぜ、協調拡大を進めるのか、ジャスコがコンビニに参入が遅れた理由など)

最後に、
三品教授は、本書で「ゆとり世代」に対して、強い期待を持っていることを書かれています。
最初に書いたように、本書はゼミ生が互いに分担しながら執筆しています。仮説を検証するため、日本全国の店舗を実地調査したり、財務報告書を何年にもわたって調べたり、経営者の生い立ちや、その考え方を調べるため、親族にインタビューしたり実家を尋ねるなど、かなりアグレッシブに行動しています。本書を読んで、私も「ゆとり世代」にたいする見方が変わってきました。

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